2013年9月16日月曜日

オープニングセレモニーから、記念講演まであっという間の5日間

 5日間まとめてスナップ紹介です。
2013年9月12日オープニングセレモニーの司会の今村君
 出品者とその家族を代表して喜舎場さんがスピーチ。
今日もダンディーです。
2013年9月15日(日曜日)記念講演「アール・ブリュットの力はどこからくるのか」
講師 はたよしこさん。
フランスのパリ市立アル・サンピエール美術館におけるアールブリュットジャポネ展にいたるまでの日本のアール・ブリュットの歴史と日本の表現者たちについて語っていただきました。
 展示はこんな感じです。
 第2展示室、県外作家を中心に構成されたレイアウトになっています。
 第3展示室県内の表現者たちの立体や平面の作品で構成されています。
展示作業は朝9時から夜の8時まで、遅くまでつきあっていただいた学芸員の又吉さん、
ありがとうございます。 
県外作家の勝部さんの作品、中央は虫眼鏡。
作品を拡大して鑑賞できるように展示されています。

2013年9月10日火曜日

「アール・ブリュットの発信力」

西洋美術とりわけ近代から現代にかけての美術の歴史を眺めていると、私にはそれが「まだ見たことのないものを表したい、見てみたい。」という衝動につき動かされた作家たちの足跡に見えてきます。彼らのなかに、自分にしか表現できない世界という目に見えないゴールを目指して描き続ける道程で、ヨーロッパの文化の影響を受けていない世界に、ヒントを求める作家がいました。
その代表選手とも言えるピカソのある時期の絵画には、アフリカの彫刻作品に活路を見いだそうとした、彼の試みを見ることができます。クレーは子どもの絵の世界に触発されて独自のスタイルを確立しました。彼は「芸術の始原は、むしろ民族学博物館か、あるいは自宅の子ども部屋で見つかるものなのです。子どもという事態そのものに、叡智がひそんでいるのです。」と述べています。少し時間は遡りますが、ゴッホは弟に送った手紙の中に、「日本の芸術を研究すると、明らかに知恵者であり哲学者である。しかも才能に溢れた1人の人間に出会う。・・・まるで自らが花であるかのように、自然の中に生きている素朴な日本人が僕らに教えるものこそ真の宗教ではないだろうか?」と浮世絵の画家への尊敬の念を綴っています。
 20世紀のフランスの画家、ジャン・デビュッフェが強い影響を受けたのは知的障がいや精神障がいの人たちの芸術でした。彼は病院や施設で行われた治療や訓練の残骸として埋もれていた絵に注目しました。そして正規の美術教育を受けていない彼らの作品を、西洋美術の常識に囚われない生き生きとした芸術という賞賛の気持ちを込めて「生の芸術=アール・ブリュット」と呼びました。
アール・ブリュットの芸術に影響を受けたのは、ジャン・デビュッフェだけではありません。彼らは自分の価値観とは違う価値観を受け入れることで、自分自身の限界を乗り越えていったのです。芸術家にとってアール・ブリュットとは、このような多様性を取り込むために必要なパートナーだったのだと思います。
ジャン・デビュッフェが収集した膨大な数の作品がスイスのローザンヌにある美術館「アール・ブリュット・コレクション」収蔵されています。この「アール・ブリュット・コレクション」で2008年に開催された企画展に喜舎場盛也が、翌年フランスのパリ市立アル・サンピエール美術館における「アール・ブリュット・ジャポネ展」に上里浩也、佐久田祐一、狩俣明宏の作品が紹介されました。彼らと新たに見いだした沖縄のアール・ブリュットを紹介する「アートキャンプ2013展~素朴の大砲~」が9月12日から23日まで浦添市美術館で開催されます。作品を収録した図録には、真喜志勉氏が入院中の青年たちに絵画を教えた体験を光源として、彼らの切実でかけがえのないアートの世界を浮かび上がらせた文章を寄せていただきました。
作家一人ひとりの作品が発信する世界を多くの方が体験されるのを願っております。

2013年9月3日火曜日

作家プロフィール:志多伯 逸/土田 政一郎/山城 誠/木下 航/勝連 盛信

志多伯 逸  

宜野湾市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

 彼の主題は、学生時代から花火とエスカレーター。自分の想像によってつくり出したもので、実在するものはほとんどない。自分の考えた架空の設定を、人に説明するのも楽しみのひとつ。主に鉛筆で描き、ペンや絵の具を準備しても手を出さない。花火の絵は白い画用紙に鉛筆で描いたが、高校生の頃、美術教師のアドバイスで今のスタイルに変わった。一見まったく違う画風にみえるが、いずれの作品も、飽くことなく幾重にも線を重ね、そのことが作品の強度を生み出している。
現在も、わかたけの創作活動では、もっぱらエスカレーターを、自宅では花火とエスカレーターを描きつづけている。その作品数は膨大な数になる。



展示経歴

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)







土田 政一郎  

浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

 4年前、わかたけで毎週創作活動の時間が設定された頃、彼はわかたけを利用するようになり、絵を描き始める。最初に描いたのはパナソニックのちょうちん。その後も、松下電器の歌のない歌謡曲からナショナル電機、パナソニックに至るまで、ため込んだ情報を披歴しながらパナソニックシリーズは続いている。今は使われない「ゐ」や「ラヂオ」などの表現も彼特有のこだわり。地デジ化が気になった頃は、自分に言い聞かせるように、くり返し地デジのお知らせを描いていたが、無事地デジがスタートすると、はたと描かなくなる。
心が落ち着かない時も、絵を描き出すと気持ちが集中、彼にとって充実したひと時となっている。



展示経歴

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)





山城 誠  

読谷村在住   
所属:渡慶次小学校

 作品から想像もつかないが、彼はまだ小学校5年生である。3,4歳の頃から宗教的な匂いのする仏、地獄、神社、墓などに興味を持つようになったという。身近な素材を使ってものづくり楽しむこともあったが、それらの作品は残っていない。
小学校4年になって、担当教師の配慮により、学校で描いたり作ったりできる環境が提供される中で、これらの作品は作られた。
20メートルに及ぶ「地獄絵巻」は、オリジナルのストーリーをもとにボールペンで試作品を描き、約半年をかけて毛筆や筆ペンで本作を仕上げた。緻密な線描の魅力に裏打ちされた不思議な力作である。今後、彼がどのような作品を見せてくれるのか楽しみである。



展示経歴

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)




木下 航  

糸満市在住  
就労サポートセンター ミラソル

  離島にいた頃、小学校の先生が与えてくれた紙粘土が気に入り、それから自宅でも紙粘土を使っていろいろ作るようになったという。その後、本島に転居しても創作は続き、次第に独自な作品を生み出していく。
これらの作品は、高校生の頃、自宅で制作したもの。「テレビやネットでみた恐竜を自分でアレンジした」と本人は語る。下校後から夕食までの時間が彼の楽しい創作のひとときである。
 水を張った洗面器を床に置き、くり返しなでて、微妙な凹凸やシャープな先端を整えていく。その行為が、均整のとれたボリューム感とあいまって、作品の完成度をあげている。





勝連 盛信  

うるま市在住  

 迷いのない確信的な筆跡は、縦横無尽に嬉嬉と走り出しおどろくばかりのスピードでカタチを造り出します。誰がみても、どこからみても「盛信さんの絵」。その絵は、多くの出合いを生み出してきました。『ただかいた…』と仕上げの時の一言。ほんとうは、伝えたい思いのカタチ。
 盛信さんの絵は、最近、特におしゃべりになりました。それはどうしてかわからないけれども、いつかその絵が教えてくれるという予感があります。「かくこと」が彼を救い癒しています。
 「かくこと」は「生きること」。どんな苦難の中でもかきつづけてきた姿に、人の深さと尊さ、気高さがいつもあります。


2013年9月2日月曜日

作家プロフィール:城間 愛子/玉城 拓人/宮城 志乃/石川 真治 

城間 愛子  

浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

 4年前、わかたけが創作活動の時間を毎週設定するようになり、そこで彼女の作品と出合った。はじめて描いた「無題」の作品は、いきなり右端から画面を分割しだし、あっという間に線を引き終わる。それから根気のいる色塗りをむしろ楽しみながらやり続け、数週間かけて仕上げる。そこには何の迷いもない。
 その後、「花」シリーズへ移行する。色彩の鮮やかさは変わらない。画材は一貫して油性ペンで、いろいろな画材を準備するが興味を示さない。
ここ1年ほど、車で畑に行って園芸作業をすること希望し、創作活動から少し遠ざかっている。






玉城 拓人
  
浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

 2年前、まだ高校生だった頃、放課後の児童デイサービスで描いた彼の作品に出会った。サザエさんや島田伸介さんの特徴をとらえながらロボット化し、いろいろな機能をつけ加える。湧き出るユーモラスな発想と線描の美しさが目を引いた。
 卒業後、わかたけを利用することになり、昼休みのわずかな時間に描きつづけている。個人用の画材を常備して、いつでも描けるようにし、スケッチブックを1冊描き終えると、得意そうに報告してくれる。出品が決まってから、家のパソコンで
 描いた作品も封筒に入れて持参し「展示して下さい」という。この展示会を楽しみにしている一人である。






宮城 志乃  

那覇市在住  
所属:社会就労センターわかたけ
 自分の身近にいる友だちや職員を描く人は珍しくない。しかし彼女ほど長年にわたってくり返し描きつづけている人は珍しい。学校卒業後は、しばらく母校の先生方を描くことが多かったが、ここ数年はもっぱらわかたけの職員と利用者。独特のパターンで次々と素早く描く。その姿は喜々としている。時には一人ひとりの足の匂いを書き加えることもある。
 2年ほど前、陶芸の時間に立体でつくることを提案したところ、手先が器用な彼女は、その時を待っていたかのように熱中してつくりだした。1個ずつ命名し、しできあがった個数を数え、職員に見てもらのが彼女の楽しみとなっている。



 

石川 真治  

浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

彼が「戦闘員」を作るようになって10年ほどになる。当初は、ヘルメットが一体になっていて、手には武器を持っていた。その後、次第に大型になり、単純化され、ヘルメットは取り外し式に変わる。胸には必ず「サソリ」が乗っている。書かれている文字は「RBC,好きな番組や映画、職員の名前」などで戦闘員とは程遠い内容だ。
彼の戦闘員は、表情はやさしく、作っている時から常に横たわっていて、秦時代の兵馬俑のように立ち上がって戦いに行く様子はない。これらの作品は、陶芸製品を作った後、1時間ほどの自由制作の時間に制作したもので、最近は、ヘルメットを掛ける台を作り続けている。

作家プロフィール 狩俣明宏/佐久田祐一/上里浩也/亀沢克弥

狩俣 明宏 

浦添市在住
所属:社会就労センターわかたけ

平成20年、沖縄県内のアウトサイダーアーティストの一人として沖縄のニュース番組の特集で紹介された。そこには、施設で働いたあとの日課として、バス停のベンチに座り、通過するバスを一台一台見送りながら、路線名と運転手さんの名前を呟いている狩俣さんの姿があった。かつては、停車したバスの乗車口の階段を駆け上がり、運転手の名札を確認しては駆け降りるということを日課にしていたことも。
バスだけでなく、運転手、行き先・経路至るまで愛着を持って収集した膨大な情報が、作品の独自性を生み出している。学齢の頃から始まり、今も飽きることなく繰り返しバスや運転手を描き続けている。

展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2006年  アートキャンプ2006「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2008年  アートキャンプ2008「素朴の大砲」展(県立博物館・美術館)

2009年  スピリット・アート・ミュージアムに掲載(インターネット)

2010年  アール・ブリュット ジャポネ展(フランス)

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)

           「乗りもので行く」展(栃木県・もう一つの美術館)




佐久田 祐一 

浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

小さい頃から粘土遊び、精密な掃除機の絵・配管まで詳しく書き込まれたトイレの絵などをサインペンで描いて遊ぶのが好きだったという。養護学校中学部の頃、美術教師が用意してくれた青い大きな画用紙の真ん中に、色紙の魚を一匹切り抜いて貼り付けたのがきっかけだった。まさに、水を得た魚のように、その後は「ハサミ・画用紙・色紙・のり」によって次々と作品を生み出している。切り絵ならではのシャープで変形された形、文字との調和、色彩の鮮やかさ、厚塗りの糊によってつくりだされテクスチュアなどが独特な世界を作りだしている。
これらの作品は、画材など環境設定を家族が支援し、自宅で制作したものである。

展示経歴

2006年  アートキャンプ2006「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2008年  アートキャンプ2008「素朴の大砲」展(県立博物館・美術館)

           「飛行する記憶」展(滋賀県)

2009年  スピリット・アート・ミュージアムに掲載(インターネット)

2010年  アール・ブリュット ジャポネ展(フランス)

2011年  「もじ・コトバ・線と点がつなぐもの」展(栃木県・もう一つの美術館)

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)




上里 浩也 

那覇市在住
所属:社会就労センターわかたけ

彼の代表的な作品は紙とセロハンテープのみでつくられた20数機の旅客機である。機体表面の各航空会社のデザインは、慎重にロゴを描き、紙を何枚も詰め込み、正確なディテールと重量感をたたえているのに対して、翼部分は簡素なつくりで彼の興味がどこに向いているのかが垣間見える。その作品の魅力は、生真面目な手仕事と模倣から生まれるポップな感触にある。
その後、彼の関心は、国旗、カード、ロゴマークなどに移って行く。しかし、執拗なまでの切り抜きとセロテープの多用は彼の変わることのない一貫した手法で、その行為が独特のテクスチュアと存在感を生み出している。



展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2003年  「図鑑天国~世界を楽しむ8つの術」(大阪府)

           DNAパラダイス~21人のアウトサイダーアーティストたち」に作品収録

2005年  国立民族博物館企画展「プリコラージュ・アート・ナウ」(大阪府)

2006年  アートキャンプ2006「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2008年  アートキャンプ2008「素朴の大砲」展(県立博物館・美術館)

2009年  スピリット・アート・ミュージアムに掲載(インターネット)

2010年  アール・ブリュット ジャポネ展(フランス)

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)




亀沢 克弥  

那覇市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

学校時代から絵を描くことが好きで、卒業後もそうした活動を行っている所はないかと思いながら、3年前にわかたけへ。毎週の創作活動で次第に独特な作品をつくりだすようになる。彼の主題は、自分の物語の中に登場するモンスター(戦士)たちや未来の街の鳥瞰図で、その二つをほぼ交互に制作している。新しい作品を描く時は、かなり考え込み構想を練る。そして、鉛筆で下書きをしたとペンで仕上げるのだが、いったん動き出した手は止まることがない。
ここに展示しているのは学生時代から現在に至るまでの約8年の作品で、独創的な形や平面分割の面白さ、色彩の鮮やかさが目を引く。

2013年9月1日日曜日

作家プロフィール:奥原禎/大城康太/仲本裕幸/与那覇 誠

奥原禎 作「ジェリーゲン」
奥原禎

浦添市在住  所属:社会就労センターわかたけ

彼は、一貫して、自分で創造した怪獣(モンスター)を描き、作り続けている。養護学校時代に描いた作品が、2001展で紹介された。わかたけに来てからは、描くことから次第に、粘土を使って立体的につくることに熱中しはじめ、それらのシャープなフォルムの作品は2006展で紹介された。

 その後、しばらく創作から遠ざかっていたが、最近、またスケッチブックに色鉛筆を使って描くようになり、出勤した時は昼休みなどを利用して、一人楽しみながらモンスターを生み出している。画材が変わったことも影響しているのか、より緻密な作風に変わっている。

展示経歴

2001年 アートキャンプ2001「素朴の大砲」展に出品

2006年 アートキャンプ2006「素朴の大砲」展に出品





大城康太

那覇市在住  所属:社会就労センターわかたけ

 養護学校からわかたけに来た当初は、黒い太線による平面分割と鮮やかな色彩で、まるでステンドグラスのような作品を描いていた。

 その後、少し作風が変わり、平面分割の面白さが消えた。花、人物、葉、魚、木、虫などを素早く何枚も描くようになり、現在は2時間余りの創作活動の時間に6枚仕上げることが彼のこだわりとなっている。画材も多種にわたり、鉛筆で形を描き、フェルトペンでなぞり、クレヨンで形を塗り、絵の具で背景を塗るといった独自のルールに沿って使い分けている。色塗りの迷いのない執拗さは、見ていて気持ちよく、色彩の鮮やかさは今も健在である。

 

展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2006年  アートキャンプ2006「素朴の大砲」展(浦添市美術館)




仲本 裕幸

浦添市在住  
所属:社会就労センターわかたけ

 やわらかな線描、独特な人物の形態と文字、余白をうめつくすことへのこだわり、これらが彼の独特な表現を生み出している。作品づくりは、じつに淡々と、ゆっくりとしたペースで、楽しみながら描いている。いろいろな画材を準備しているが、彼は決まって4切り画用紙と細ペンを選ぶ。以前は抽象的な形や花を描くこともあったが、現在はわかたけの利用者や職員をくり返し描いている。

 2001展で紹介されて以来、しばらく出品の機会から遠ざかっていた。この3年間、創作活動の時間に、密度の高い作品を描くようになり、久しぶりに「素朴の大砲展」で紹介されることになった。

展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)




与那覇 誠

浦添市在住  所属:社会就労センターわかたけ

 彼の題材は、長きにわたって変わらない。養護学校時代から自分と家族、特に大好きな父親、そして自分の家、家具類、車などを描き続けている。時には大量の矢印を描き加えることも。最近はそれに加えて携帯電話や大好きな彼女と仮面ライダーが登場することが多い。

細いペンでの線描にこだわり、彼にかかると人物は独特な表情に変わる。仕事の時より集中・持続して、時間がたつのも忘れて描き続ける。

 これらの作品は、わかたけの創作活動の時間に制作されたもので、今も描き続けており、2001年以来、久しぶりに「素朴の大砲」展での紹介となった。


展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

作家プロフィール:喜舎場 盛也


喜舎場 盛也

那覇市在住  
所属:社会就労センターわかたけ


彼の文字への執着は幼少の頃から続いている。自室でこっそり制作していた作品が2001展で紹介されると、たちまち県外から、そして国外からも注目を集める。最後まで埋められたものは2~3枚しかなく、大半は途中で止まっている。

その後、家庭だけではなく、わかたけの創作活動の時間でも文字を描くようになり、それらの作品はなぜか縦方向に描き進んでいる。これらすべて途中で描くのをやめている。

ここ10年ほどは漢字ではなく、もっぱら色とりどりのベル・星・小さな丸などを描くことに熱中している。まるで染め物のように、裏面ににじみ出るまで執拗に塗り込み、そのこと自体を楽しんでいるかのような制作風景である。

   展示経歴

2001年  アートキャンプ2001「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2001~2002年  エイブル・アート英国展(イギリス)

2003年  「図鑑天国 世界を楽しむ8つの術」(大阪府)

           DNAパラダイス~21人のアウトサイダーアーティストたち」に作品収録

2006年  アートキャンプ2006「素朴の大砲」展(浦添市美術館)

2008年  アール・ブリュット・コレクション「Japoniese展」(スイス)

        アール・ブリュット/交差する魂展(滋賀県、東京都、北海道)

        アートキャンプ2008「素朴の大砲」展(県立博物館・美術館)

2009年  スピリット・アート・ミュージアムに掲載(インターネット)

2010年  アール・ブリュット ジャポネ展(フランス)

       「作家はつぶやく」展(千葉県・佐倉美術館)

       アール・ブリュット ジャポネ展に招待された5人展(沖縄タイムスホール)

2011年  「もじ・コトバ・線と点がつなぐもの」展(栃木県・もう一つの美術館) 

2013年  「沖縄アドベンチャー」展(岩手県・るんびにい美術館)

        「アールブリュット」展(愛知県・セリオ株式会社)

作家プロフィール 昆 弘史

昆 弘史 「人」
1953年生まれ 岩手県花巻市在住 

社会福祉法人光林会るんびにい美術館所属 

 作品は丸い輪郭の中に目、鼻、口が簡易に描かれた人面が幾重にも描かれており、画面の中にそれが厚く塗り重なったときに、おどろおどろしい雰囲気がかもし出されている強い画面が構築される。
イーゼルに立てたパネルだと画面の中央、机に置いたパネルだと画面の縁というように、手がよく届くところが厚く濃く塗りが重なっており、特に配色や構成などにも作為的なものは見られない。作品数はさほど多くなく、ふだんはスケッチブックに描いていることが多い。飄々と手を動かして、「○○さんの顔描いたよ」と職員の名前を言いながら描きかけのスケッチブックを見せてくれる。時によっては、描くことよりも職員に報告することに時間が割かれている印象を受けることもあるほど、制作への集中力は散漫である。
 毒気の強い作品の雰囲気からは想像しにくい、穏やかで紳士的な男性である。

受賞歴
・第8回いわて・きららアート・コレクション 優秀賞

・第9回いわて・きららアート・コレクション 奨励賞

・第10回いわて・きららアート・コレクション 奨励賞

・第12回いわて・きららアート・コレクション 奨励賞

・第13回いわて・きららアート・コレクション 奨励賞

・第15回いわて・きららアート・コレクション きらら大賞

作家プロフィール 勝部 翔太

勝部 翔太 作
1991年生まれ 島根県在住

 彼のこの人形の素材は、雑貨店で売られている「アルタイ」という商品名の、袋などの口を括るための針金である。(おせんべいの袋を閉じるのによく使われている)小さなハサミや爪切りをスピーディーに使い分け、見る見る内に5〜6分で1体を作り上げていく。
 人形のサイズは約3㎝。きわめて極小なのにもかかわらず、躍動感みなぎる生き生きとした形である。目を近づけてよく見ると、その迫力にはドキリとするものがある。モチーフのイメージはアニメ−ションの中の戦士達だが、既存のものの模写ではなく一体一体が彼流のデザインになっている。
作り始めると迷いなく、完成形は既に見えているかのように、手が止まることはないのだ。彼の素早い手技はリズミカルで、職人のように動きに無駄が無い。
 この制作は10歳の頃から始まったようだ。それにしても、何故この小ささなのだろうかと思い、彼に尋ねてみると「作りやすいから。」と単純明快な答えが帰ってきた。確かに彼は手の内サイズの触覚的な作業から、とても心地良い感触を得ているようだ。


作家プロフィール 萩野トヨ

荻野トヨ 作
1938年生まれ 滋賀県在住

 トヨさんが刺繍を始めたのは50歳になったときだった。それまではあざみ織り工房で「むすび織り」を織っていたが、そこでは彼女の持つ独特の世界が表現できていないことを、本人も周りの人たちも感じながら、他に方法を見つけられぬまま過ごしていた。

 そんなある日のことだった。いつものように、豆を入れたらこぼれ落ちそうなくらい大きな縫い目で縫った小袋に自分で色糸を使って小さな丸や四角のステッチを入れていた。その色と形、針目の温かさが新鮮で、私は思わず「これがトヨさんの世界」と、何度も声を上げていた。それが彼女の刺繍の始まりだった。

 その時々の心のままに描くような彼女の刺繍は「糸絵」と呼ばれ、私たちにたくさんの豊かなイメージをくれる。

季刊雑誌「銀花」の取材でトヨさんが語った言葉、
「針をもつことが好きです。自分で考えてやってみようと思い、やっとできました。」
(元あざみ寮施設長  石原 繁野)

作家プロフィール 畑名裕孝

畑中裕孝 作
1976年生まれ 滋賀県在住

 彼の作品は、イメージを形作る太い黒のラインと、カラフルに塗り込んだ大胆な色面とが織りなす力強さ、それと同時に存在する生き生きとしたユーモラスなニュアンスが魅力だ。しかし、意外にも彼の描画のプロセスは、彼自身にしか分からない意味不明で厳密な手順で成り立っている。プロセスの途中で、初めに描いたモチーフの線描などは破壊されてしまい、結果的に一見半抽象的な色面構成だけが残ってゆく。

 自閉症という障害がある彼はグループホームで暮らし、近隣の知的障害者福祉施設に通って仕事を、絵を描くのは月に2度開かれる絵画アトリエの時間である。(執筆:はたよしこ)

出品歴

2003 Three/Free/Pleaバンバン3人展(ギャラリーマロニエ/京都府)

2010-2011 ART BRUT JAPONAIS(アル・サン・ピエール/パリ)

2012 ひそむ形 とけ出る色 滋賀のアール・ブリュットたち(ボーダレス・アートミュージアムNO-MA/滋賀県)

2012- ヨーロッパ巡回展(ヨーロッパ各所の美術館/ヨーロッパ)

2012 アール・ブリュット展~生の芸術~(浜松市美術館/静岡県)

2012 アール・ブリュット展~飄々たる表現者たち~(じゅらくの里/滋賀県)

2013 アートキャンプ2013展~素朴の大砲~(浦添市美術館/沖縄県)

2013 アール・ブリュット展(電気文化開館/愛知県)

2013年8月31日土曜日

アールブリュットについて①

佐久田祐一 作
西洋美術とくに近代から現代にかけての美術の歴史を眺めていると、まだ見たことのないものを見たい、表したいという衝動に突き動かされた作家たちの物語、と思えることがあります。
彼らは自分にしか描くことができない世界を追い求め、描き続ける過程で、ヨーロッパ文化の影響を受けていない世界に、ヒントを求めました。
その代表選手とも言えるピカソは、アフリカの芸術に活路を見いだそうとしました。クレーは子どもの絵の世界をお手本にしています。少し時間を遡りますが、ゴッホは浮世絵から構図や色彩を学んでいます。
フランスの画家、ジャン・デビュッフェが強い影響を受けたのは知的障がいや精神障がいのある人たちの芸術でした。病院や施設での治療の残骸として埋もれていた絵に彼は注目しました。そして正規の美術教育を受けていない彼らの作品、西洋美術の常識に囚われない表現を賞賛して「生の芸術(アール・ブリュット)」と呼びました。ジャン・デビュッフェの収集した膨大な「アール・ブリュット」の作品は、今もスイスのローザンヌにある美術館「アール・ブリュット・コレクション」で見ることができます。
アール・ブリュットの作品に影響された作家は、ジャン・デビュッフェだけではないと思います。
自分にとって異質なものを受け入れることで、多様性が生まれ、変化に柔軟に対応する力を得る。芸術家あるいは社会にとってアール・ブリュットとは、そういった多様性を生み出す重要な存在なのではないでしょうか。

作家プロフィール 上江洲菜摘

    山高帽のようなものを被ったような頭部、腕は省略され、片方の足を一歩踏み出した横向きの人物の図像は記号のようでもあり、また彼女の年齢にそぐわない古風な趣がある。山高帽のつばにあたる線の高さや頭部の長さが微妙に違いながら連続し、なだらかな稜線を描いてリズミカルに連なる群像は一度見たら忘れられない。この山高帽紳士の由来を知りたいと思っていたが、その機会を得ぬまま彼女は卒業してしまった。ただ彼女が高校生の頃、その群像を彼女が描き終わったときに題名はどうする、と教師が尋ねたら「ともだちのひと」と答えたそうだ。確かに、人物像の下には、友達や教師の名前が書き込まれていることがある。人を表す象徴のように描いているのかも知れない。

 美術が得意な彼女が、丹念に描き一人一人違う色で仕上げていくこの群像は人気があり、彼女がまだ在学していた頃、学校で作られるTシャツなどの図柄などによく用いられていた。展示会で再び出会うことができた山高帽子紳士の出自を想像しながら鑑賞したいと思う。
上江洲菜摘 作

作家プロフィール 東恩納侑

 侑さんの創作活動の始まりは、2歳の頃に遡る。本人が何か集中できるものは無いかと母親が粘土を与えたのがきっかけだった。
 粘土に夢中になった彼は、保育園で芋ほりをしたときは粘土で芋を作り、海に行ったときは魚を作って母親に見せた。言葉を使って気持ちを通じ合わせることが苦手な彼にとって、粘土細工は母親や家族とのコミュニケーションの手段だったようだ。
 その後、小学3年生の頃から針金を使うようになった。針金で作られる題材は、テレビでよく見ていた機関車トーマス。そして機関車の他にも仮面ライダーのマスクや腕に取り付ける武器(これらは本人が身につけて遊ぶための物だった)、そしてロボット。
 針金で縁取られた彼の作品を見ていると、空中に描かれた絵のようだ。しかも、素描は同時に構造でもあり、彼の手から産み落とされた瞬間から、物体として立ち上がる、その存在感がいとおしく思える。

出品歴

2006年 「アートキャンプ2006展~素朴の大砲~」(沖縄)
2008年 「アートキャンプ2008展+マリオデルクルト写真展」(沖縄)
東恩納侑 作

東恩納侑 作

作家プロフィール 藤野友衣

藤野友衣 作
「アートキャンプ2001展~素朴の大砲~」で、目鼻の代わりに顔に文字や数字を描いた人物画を出展していた藤野さんは、小学生の頃から絵の制作と並行してぬいぐるみを作っていた。
 彼女が自作のぬいぐるみを携えて得意げに登校していたのを見たことがあるが、その表現は絵の立体版といってよく、胴体に比べて小さな両手と目や鼻がない顔が印象的だった。
 はたよしこ氏はその著書の中で顔を記号化することは、他者を理解するために彼女が会得した生きるための術であったのではないか、ということを述べられている。  旺盛な制作力は、彼女の周りで起こっている様々なことを理解するための彼女なりの必然と表裏一体だったのかも知れない。

現在、施設で働く彼女の仕事は、ぬいぐるみ作りである。果物などを擬人化したキャラクターは、いつも愛想良く微笑んでいる。彼女はこのキャラクターを頭の中でデザインするだけでなくフェルトなどを使ってぬいぐるみにするまでの工程を一人黙々と繰り返している。本島北部にある彼女の工房では、この可愛らしいぬいぐるみが毎日産声を上げているのである。


出品歴

2001年 「アートキャンプ2001展~素朴の大砲~」(沖縄)
2003年 「図鑑天国展 世界を楽しむ8つの術 」(大阪)
       「DNAパラダイス-27人のアウトサイダーアーチストたち」に作品収録
2006年 「アートキャンプ2006展~素朴の大砲~」(沖縄)
2008年 「アートキャンプ2008展+マリオデルクルト写真展」(沖縄)

藤野友衣さんのぬいぐるみ5連発!!

久しぶりに、作品写真を見ていると、やっぱり可愛い。ので掲載します。
皆さんも、藤野ワールドをご堪能下さい。

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

アートキャンプ2013展~素朴の大砲~記念講演会のお知らせ

ボーダレスアートミュージアムNO-MAアートディレクターの はたよしこ さんによる講演会が下記の日程で開かれます。

日時:2013年9月15日(日曜日)午後2時~4時
場所:浦添市美術館講堂(玄関エントランス奥)
演題:「アールブリュットの力はどこからくるのか」~パリでも大評判を受けた日本の作品群~
入場無料

講師プロフィール
79年大谷美術館絵本原画コンクール入賞。80年クレヨンハウス絵本大賞優秀賞受賞、赤とんぼ絵本賞入賞、。81年偕成社「絵本とおはなし」新人賞受賞。主な絵本に「そらのたべかたおしえましょう」「うしろをみせて」(すずき出版)、「ゆうくんのぶわぶわふうせん」「おにがきた」「ぼくをだいて」(偕成社)「かけっこしよう」(岩崎書店)などがある。また長年、知的障がい者のアートサポートを続けており、エッセイ集に「風のうまれるところ」(小学館)、編著に「DNAパラダイス-27人のアウトサイダーアーティストたち-」(日本知的障害者福祉協会)、「アウトサイダー・アートの世界-東と西のアール・ブリュット」(紀伊国屋書店)などがある。国内外で障がい者のアートを紹介し、展覧会やワークショップなどを行っている。
藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

2013年8月30日金曜日

アートキャンプ2013展のチラシが完成しました。

特別支援学校で美術を教えながら、子どもたちの作品に触れていると時々ハッとすることがあります。西洋美術の系譜とは違う美意識、細部に没入するこだわり、視覚的情報に対する驚くべき記憶力、奇抜なデフォルメ。
さらに驚かされるのは、図工や美術の授業以外の時間にも創作をしている子どもたちがいることでした。
 自宅に帰って後の日課の合間を見つけて、生きることの一部として描き、作り続けている彼らの表現には、作風あるいはスタイルといってもよい一貫した世界観がありました。
それは、とりもなおさず、身の回りのモノ、人、コトに対する彼らなりの向き合い方を表しています。あまりにも個人的で不器用だけど真摯な観察者。それゆえに、見慣れた日常を違った視点で投影した作品が、見ている私を掴んで離さない、という体験をしました。材料も手軽に手に入る紙やセロファンテープ、針金などが、彼らの手にかかると、化学変化が起こったように独特の質感をもって迫ってきました。
 
 この展示会を企画した「アートキャンプ2001実行委員会」は独自の表現世界をもつ障がい児者の表現活動を支援し、2001年から5回にわたり展示会を開催してきました。これまで、アートキャンプ展で紹介された作家の中には「アールブリュットコレクション」等海外の美術館から招待を受けるなど高い評価を得た作家もいます。
 本展はこれまでに紹介されていない新たな作家16名を含めた県内作家26名と県外の4名の作家で構成されています。
 展示会は9月12日から沖縄県の浦添市美術館で開催されます。是非、ご覧下さい。