荻野トヨ 作 |
トヨさんが刺繍を始めたのは50歳になったときだった。それまではあざみ織り工房で「むすび織り」を織っていたが、そこでは彼女の持つ独特の世界が表現できていないことを、本人も周りの人たちも感じながら、他に方法を見つけられぬまま過ごしていた。
そんなある日のことだった。いつものように、豆を入れたらこぼれ落ちそうなくらい大きな縫い目で縫った小袋に自分で色糸を使って小さな丸や四角のステッチを入れていた。その色と形、針目の温かさが新鮮で、私は思わず「これがトヨさんの世界」と、何度も声を上げていた。それが彼女の刺繍の始まりだった。
その時々の心のままに描くような彼女の刺繍は「糸絵」と呼ばれ、私たちにたくさんの豊かなイメージをくれる。
季刊雑誌「銀花」の取材でトヨさんが語った言葉、
「針をもつことが好きです。自分で考えてやってみようと思い、やっとできました。」
(元あざみ寮施設長 石原 繁野)
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