2013年8月31日土曜日

アールブリュットについて①

佐久田祐一 作
西洋美術とくに近代から現代にかけての美術の歴史を眺めていると、まだ見たことのないものを見たい、表したいという衝動に突き動かされた作家たちの物語、と思えることがあります。
彼らは自分にしか描くことができない世界を追い求め、描き続ける過程で、ヨーロッパ文化の影響を受けていない世界に、ヒントを求めました。
その代表選手とも言えるピカソは、アフリカの芸術に活路を見いだそうとしました。クレーは子どもの絵の世界をお手本にしています。少し時間を遡りますが、ゴッホは浮世絵から構図や色彩を学んでいます。
フランスの画家、ジャン・デビュッフェが強い影響を受けたのは知的障がいや精神障がいのある人たちの芸術でした。病院や施設での治療の残骸として埋もれていた絵に彼は注目しました。そして正規の美術教育を受けていない彼らの作品、西洋美術の常識に囚われない表現を賞賛して「生の芸術(アール・ブリュット)」と呼びました。ジャン・デビュッフェの収集した膨大な「アール・ブリュット」の作品は、今もスイスのローザンヌにある美術館「アール・ブリュット・コレクション」で見ることができます。
アール・ブリュットの作品に影響された作家は、ジャン・デビュッフェだけではないと思います。
自分にとって異質なものを受け入れることで、多様性が生まれ、変化に柔軟に対応する力を得る。芸術家あるいは社会にとってアール・ブリュットとは、そういった多様性を生み出す重要な存在なのではないでしょうか。

作家プロフィール 上江洲菜摘

    山高帽のようなものを被ったような頭部、腕は省略され、片方の足を一歩踏み出した横向きの人物の図像は記号のようでもあり、また彼女の年齢にそぐわない古風な趣がある。山高帽のつばにあたる線の高さや頭部の長さが微妙に違いながら連続し、なだらかな稜線を描いてリズミカルに連なる群像は一度見たら忘れられない。この山高帽紳士の由来を知りたいと思っていたが、その機会を得ぬまま彼女は卒業してしまった。ただ彼女が高校生の頃、その群像を彼女が描き終わったときに題名はどうする、と教師が尋ねたら「ともだちのひと」と答えたそうだ。確かに、人物像の下には、友達や教師の名前が書き込まれていることがある。人を表す象徴のように描いているのかも知れない。

 美術が得意な彼女が、丹念に描き一人一人違う色で仕上げていくこの群像は人気があり、彼女がまだ在学していた頃、学校で作られるTシャツなどの図柄などによく用いられていた。展示会で再び出会うことができた山高帽子紳士の出自を想像しながら鑑賞したいと思う。
上江洲菜摘 作

作家プロフィール 東恩納侑

 侑さんの創作活動の始まりは、2歳の頃に遡る。本人が何か集中できるものは無いかと母親が粘土を与えたのがきっかけだった。
 粘土に夢中になった彼は、保育園で芋ほりをしたときは粘土で芋を作り、海に行ったときは魚を作って母親に見せた。言葉を使って気持ちを通じ合わせることが苦手な彼にとって、粘土細工は母親や家族とのコミュニケーションの手段だったようだ。
 その後、小学3年生の頃から針金を使うようになった。針金で作られる題材は、テレビでよく見ていた機関車トーマス。そして機関車の他にも仮面ライダーのマスクや腕に取り付ける武器(これらは本人が身につけて遊ぶための物だった)、そしてロボット。
 針金で縁取られた彼の作品を見ていると、空中に描かれた絵のようだ。しかも、素描は同時に構造でもあり、彼の手から産み落とされた瞬間から、物体として立ち上がる、その存在感がいとおしく思える。

出品歴

2006年 「アートキャンプ2006展~素朴の大砲~」(沖縄)
2008年 「アートキャンプ2008展+マリオデルクルト写真展」(沖縄)
東恩納侑 作

東恩納侑 作

作家プロフィール 藤野友衣

藤野友衣 作
「アートキャンプ2001展~素朴の大砲~」で、目鼻の代わりに顔に文字や数字を描いた人物画を出展していた藤野さんは、小学生の頃から絵の制作と並行してぬいぐるみを作っていた。
 彼女が自作のぬいぐるみを携えて得意げに登校していたのを見たことがあるが、その表現は絵の立体版といってよく、胴体に比べて小さな両手と目や鼻がない顔が印象的だった。
 はたよしこ氏はその著書の中で顔を記号化することは、他者を理解するために彼女が会得した生きるための術であったのではないか、ということを述べられている。  旺盛な制作力は、彼女の周りで起こっている様々なことを理解するための彼女なりの必然と表裏一体だったのかも知れない。

現在、施設で働く彼女の仕事は、ぬいぐるみ作りである。果物などを擬人化したキャラクターは、いつも愛想良く微笑んでいる。彼女はこのキャラクターを頭の中でデザインするだけでなくフェルトなどを使ってぬいぐるみにするまでの工程を一人黙々と繰り返している。本島北部にある彼女の工房では、この可愛らしいぬいぐるみが毎日産声を上げているのである。


出品歴

2001年 「アートキャンプ2001展~素朴の大砲~」(沖縄)
2003年 「図鑑天国展 世界を楽しむ8つの術 」(大阪)
       「DNAパラダイス-27人のアウトサイダーアーチストたち」に作品収録
2006年 「アートキャンプ2006展~素朴の大砲~」(沖縄)
2008年 「アートキャンプ2008展+マリオデルクルト写真展」(沖縄)

藤野友衣さんのぬいぐるみ5連発!!

久しぶりに、作品写真を見ていると、やっぱり可愛い。ので掲載します。
皆さんも、藤野ワールドをご堪能下さい。

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

アートキャンプ2013展~素朴の大砲~記念講演会のお知らせ

ボーダレスアートミュージアムNO-MAアートディレクターの はたよしこ さんによる講演会が下記の日程で開かれます。

日時:2013年9月15日(日曜日)午後2時~4時
場所:浦添市美術館講堂(玄関エントランス奥)
演題:「アールブリュットの力はどこからくるのか」~パリでも大評判を受けた日本の作品群~
入場無料

講師プロフィール
79年大谷美術館絵本原画コンクール入賞。80年クレヨンハウス絵本大賞優秀賞受賞、赤とんぼ絵本賞入賞、。81年偕成社「絵本とおはなし」新人賞受賞。主な絵本に「そらのたべかたおしえましょう」「うしろをみせて」(すずき出版)、「ゆうくんのぶわぶわふうせん」「おにがきた」「ぼくをだいて」(偕成社)「かけっこしよう」(岩崎書店)などがある。また長年、知的障がい者のアートサポートを続けており、エッセイ集に「風のうまれるところ」(小学館)、編著に「DNAパラダイス-27人のアウトサイダーアーティストたち-」(日本知的障害者福祉協会)、「アウトサイダー・アートの世界-東と西のアール・ブリュット」(紀伊国屋書店)などがある。国内外で障がい者のアートを紹介し、展覧会やワークショップなどを行っている。
藤野友衣 アートキャンプ2008展出品作品

2013年8月30日金曜日

アートキャンプ2013展のチラシが完成しました。

特別支援学校で美術を教えながら、子どもたちの作品に触れていると時々ハッとすることがあります。西洋美術の系譜とは違う美意識、細部に没入するこだわり、視覚的情報に対する驚くべき記憶力、奇抜なデフォルメ。
さらに驚かされるのは、図工や美術の授業以外の時間にも創作をしている子どもたちがいることでした。
 自宅に帰って後の日課の合間を見つけて、生きることの一部として描き、作り続けている彼らの表現には、作風あるいはスタイルといってもよい一貫した世界観がありました。
それは、とりもなおさず、身の回りのモノ、人、コトに対する彼らなりの向き合い方を表しています。あまりにも個人的で不器用だけど真摯な観察者。それゆえに、見慣れた日常を違った視点で投影した作品が、見ている私を掴んで離さない、という体験をしました。材料も手軽に手に入る紙やセロファンテープ、針金などが、彼らの手にかかると、化学変化が起こったように独特の質感をもって迫ってきました。
 
 この展示会を企画した「アートキャンプ2001実行委員会」は独自の表現世界をもつ障がい児者の表現活動を支援し、2001年から5回にわたり展示会を開催してきました。これまで、アートキャンプ展で紹介された作家の中には「アールブリュットコレクション」等海外の美術館から招待を受けるなど高い評価を得た作家もいます。
 本展はこれまでに紹介されていない新たな作家16名を含めた県内作家26名と県外の4名の作家で構成されています。
 展示会は9月12日から沖縄県の浦添市美術館で開催されます。是非、ご覧下さい。