彼らは自分にしか描くことができない世界を追い求め、描き続ける過程で、ヨーロッパ文化の影響を受けていない世界に、ヒントを求めました。
その代表選手とも言えるピカソは、アフリカの芸術に活路を見いだそうとしました。クレーは子どもの絵の世界をお手本にしています。少し時間を遡りますが、ゴッホは浮世絵から構図や色彩を学んでいます。
フランスの画家、ジャン・デビュッフェが強い影響を受けたのは知的障がいや精神障がいのある人たちの芸術でした。病院や施設での治療の残骸として埋もれていた絵に彼は注目しました。そして正規の美術教育を受けていない彼らの作品、西洋美術の常識に囚われない表現を賞賛して「生の芸術(アール・ブリュット)」と呼びました。ジャン・デビュッフェの収集した膨大な「アール・ブリュット」の作品は、今もスイスのローザンヌにある美術館「アール・ブリュット・コレクション」で見ることができます。
アール・ブリュットの作品に影響された作家は、ジャン・デビュッフェだけではないと思います。
自分にとって異質なものを受け入れることで、多様性が生まれ、変化に柔軟に対応する力を得る。芸術家あるいは社会にとってアール・ブリュットとは、そういった多様性を生み出す重要な存在なのではないでしょうか。